☆エロ屋さんの戯言☆

長年エロ屋に関わっている自分の日常のあれこれや戯言を綴っています☆

続き⭐︎2⭐︎

坂口さんと私に連絡が取れる共通の知り合いはいなかった。
あの頃来てくれていた同業者のお客さんに会いに行けば何か分かるかもしれないと思ったのだが、随分前にお店は閉店していたらしく会うことができなかった。
仕方あるまい…こうなったら坂口さんが所属していた組合とやらに聞いてみるしかない。
礼節を持って訊ねれば何かを教えてくれるかもしれない、と思い行動に出た。

ここまでの詳しい経緯は省略するが、私はそこで「亡くなった」という情報を知ることができた。
「なくなってるね」とサラッとだが言いにくそうに丁寧に教えてくれた。でもだいたいの時期は知っているが、それ以上の事はわからないとのこと。
知っていてもどこぞの女か分からない私には教えられないのかもしれない。
ちなみに「なくなった」をひらがなにしたのは、もしかしたら「お店がなくなった」という意味かもと思ったその時の希望を変換した。言い方で違うとは分かっていたのだけれども。

勝手に勘を働かせていた割には、覚悟が足りていなかったらしい。ふと我に返った帰り道に涙が出てきてしまった。しかもけっこうマジなやつだ。
でも不思議とやはり「やっぱりね」だった。
坂口さんはいつかフラッと亡くなってしまうのではないかと、どこかで不安だった。というのもあの人が病院に入院するとか、つまり誰かの言う事を聞くなんて想像できなかったのだ。
誰も知らない状況でフラッといなくなってしまいそうな人だ。
そしてここまで詳しい情報が出回っていないのは、坂口さん自身が秘密主義者だったということもあるのだろう。やってくれるな、坂口さんの人生っぽいやんけ。さてここからどうしようか。よく分からなかったけど「ああそうか」とは思えなかった。
まだジタバタしたいのは、これは坂口さんと築き上げた関係の本能だと思う。

かと言って友達や知人に知恵を貰おうという発想はなかった。この理由はこの時点では明確ではなかったのだが後に合点がいく。
とりあえず私は人生の先輩である母に電話を掛けた。
人生の知恵とやらを知っているかもしれない。
母は私がエロ屋だとはもちろん知らない。水商売をやっていたのは知っているので、その時にお世話になった人とだけ伝えた。
「そういう業界の人なら仕方ないよ。そうやって何もわからなくても覚悟のうえじゃろ。それに御本人もそこまで望んでないんじゃないん?」だった。
すんなりと電話を切った。私は知恵を貰おうとしたのではなかったのだと分かった。
母なら「悲しいね」なんて言ってくれるかもと勝手に期待していたのだ。欲しかった答えではないからと不満を持つなんて、身勝手な奴だ私は。
人様に勝手に不満を持たない為にもこういうことは胸な閉まっておくべきなんだ。今の私は私の正解に触れてくれなくてはダメだと心が狭くなっている。
そして母は私の痛いところを突いてきた。かなり正確にだ。

私は今までこの業界のハイリスクハイリターンについて半分冗談半分本気で書いてきた。
でも本当のリスクはまともなお別れができないことだと分かっていた。確かな情報も得られない。
まぁ私だってもしもの時は何があったとか人様に知られたくない。
この業界でたくさん大切な人ができ、そしてたくさんの突然のお別れを思い知った。病気や事件に巻き込まれたり自ら死を選んだ人もいた。みんなまともな挨拶なんてできないままだった。
本名も年齢も住んでいる所も知らないアングラな世界では何も追えないし、ある意味それは礼儀だとも思っていた。風化するのを待つしかなかった。それが故人のプライバシーや心を守る方法だとも思ってきた。
しかし今回ばかりはそんなのどうでも良いのだ。
「この業界だから」ではない。坂口さんなのだ。本人が望んでいるとか望んでいないとかそんなの関係ないっちゅうねん。生きている者の行動の自由を大いに使わせて頂きます。知ーらんぺ。私はただ坂口さんが好きなのだ。

でも私と坂口さんの間柄を証明するものは何もない。正規の会社なら名刺を見せたり在籍確認をしてもらい信用を得ることができるが、私にはそれができない。そんな怪しい私に詳しい事や、ましてやお墓の場所を教えて貰う事は困難であった。何より坂口さん自身が秘密主義な人であった為、情報が無さすぎる。
お店で一緒に撮った写真やLINEのやり取りを見せたら信用を得れるかとも思ったが、それは坂口さんに申し訳ない。それにそのLINEは本当に坂口さんなのか?と問われたら証明のしようがない。

そんなことを思いながら久々に行った町の駅には、あの日坂口さんに貰ったどら焼きのお店ができていた。あの時は遠くまで買いに行ってくれたんだよなー、つい最近の事と思っていたが時間はやっぱり経っているものなんだなと思った。今なら私がここで買って行くのに。



いつでもノラネコぐんだんは私の癒しです。
東京駅の期間限定の催しもの。かわいすぎた。

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私は敢えてあの町ではあまり人との繋がりを持たないようにしていた。
余程信頼している人以外には警戒心を持っていた。
特に口には出さなかったけど、坂口さんもあの風俗店に来てくれていた同業者以外で私と誰かを繋げようとはしていなかったと思う。
いやむしろ避けようとしてくれていたとも思える。
坂口さん自身も交友関係を広げることには警戒していた。1番の常連のお客さんの紹介であっても入店を拒否していた。坂口さんは長年の経験と知恵で厄介ごとを回避する能力に長けていたのだろう。
だから余計に私は坂口さんが亡くなった経緯を知ろうとしたり、好き勝手に動く事には疑問はあった。
母の言っていた事は私の方が分かっているつもりだ。この業界のタブーは長年散々知っているはずなのに。私はただ自己満足で動きたいのだ。

でも坂口さんが人を警戒していた理由は単に自分の好き嫌いやしがらみだけではないと思う。
坂口さんは店の前にいる誰かに「今大事な話してるから帰ってくれ」と追い払う事があった。
なんだか怖いよこういう雰囲気と思っていたが、そうやって店内にいる1人1人の性格を把握してお客さんを大切にする人だったからだと思う。
「まいちゃん口説いてるのによー」とギャグをかましていたが「大事な話」とは東出昌大の不倫問題についての坂口さんの持論であった。
照れ屋で愛情深くて謎が多い坂口さん。私がこんな事するのを望むとか望んでいないとかどうでも良くて「会いたいよ」と言ってくれたのだから勝手にする。
自信を付けて動く時は、自分なりの根拠がないと人間ブレるものだなと思った。
しかし困った。私もあのお店で誰かと仲良くなったりしていれば、何か知ることができたのかな。



しかしある日プライバシー保護の為詳しいことは省略するが、私は坂口さんの飲食店に通っていた常連さんを見つけることができた。
しかも坂口さんとはかなり親密な仲らしい。とある場所で自営をしていて、有難いことにその連絡先まで知ることができたのだ。
失礼は承知、でももうこれ以上の手掛かりはない。
まずは職場にメールを送り電話を掛けた。
職場の女性が電話口で「ああ!あのメールの浅井さん!すぐに変わりますね」と言ってくれた。この雰囲気や対応に早くもウルウルしてしまった。いや、泣いている場合ではない。今はちゃんとしたい。

電話に出てくれた鈴木さん(仮名)の第一声目は「鳥肌が立ちましたよ」だった。私のストーカーじみた狂気にだろうか。そりゃそうであろう。ごめんなさい。
「あなたはちゃんとした人で、坂口さんと繋がりがあった人ですよね。すぐに分かりました。とても嬉しくて驚いて鳥肌が立ちました」
この言葉を聞いて私は涙が溢れてしまった。
突然の連絡をよこしてきた私にこんな事を言ってくれるなんて。メール一通で私と坂口さんの繋がりを信用してくれる人がいた。


鈴木さんはザラザラしたような低い聞きやすい声で、もの凄く沢山の人とコミュニケーションを取ってきた人と思われた。会話の場数や人慣れ感が凄くて、温かい人柄なのは間違いないと直感で感じた。
そして私がずっと探してきた、この人が私と一緒の感情の持ち主だと思った。
私が知人に話したいとも思わず、母の言葉に納得がいかなかったのは何よりも共感して貰いたかったからだ。アドバイスなんていらない、自分の経験談にもすり替えないただ一緒に坂口さんの事を話せる人に会いたかったのだと、鈴木さんの声を聞いた途端に全てに合点がいった。
鈴木さんは「私は坂口さんの飲食店で初めて会って仲良くさせて頂いていました。浅井さんはどちらで会いましたか?」と尋ねてきた。
ごめんよ、坂口さん。私はこの人には本当の事を言いたい。私は私があの町の風俗嬢であった事、坂口さんはその時のお客さんで最後は一緒に働いていたことを話した。
「そうでしたか!私が知らない坂口さんを知っているんですね。坂口さんの最期についてもお話しますし、お墓の場所も教えるので良かったら会いましょう」
鈴木さんは私が1番知りたかった事を察してくれ、そう言ってくれた。続けて亡くなった経緯も大まかに教えてくれた。そして詳しい事は会って話しましょうと言ってくれた。

続けて鈴木さんは「坂口さんの死は自らと言う事だけはないです」と言ってくれた。
取り急ぎ私の不安を察して解消せねばと思ってくれたのだと思う。その途端分かってはいたが心のどこかで引っかかっていたことが、スッと解消された。
あまりにも安心して気が抜けた私は余計な事を言ってしまった。「早くまいちゃんに会いたいよって言ってくれたまま連絡が取れなくなってしまったんです、、鈴木さーん!!ありがとうございます!!びぇええん!!」
鈴木さんは坂口さんの知ってはいけなかった一面を知り、それがかわいくて堪らないかのように笑いながら「こちらに来る時ぜひ連絡を下さい」と言ってくれた。
坂口さんごめんよ、エロ屋の最大の仕事は守秘義務を守ることなのに。でも前回も書いちゃったよ。接客時間の事ではないから良しとしよう。
翌週私は鈴木さんに会いに行った。



まきまい





次回は鈴木さんに会いに行く。お墓参りに行くです。